名古屋地方裁判所 平成4年(行ウ)31号 判決 1994年4月22日
名古屋市港区小碓一丁目三八三番地
原告
神野時宗
右訴訟代理人弁護士
西尾弘美
同右
安藤巌
名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号
被告
中川税務署長 中井正彦
右指定代理人
泉良治
同右
金沢良孝
同右
吉田博致
同右
加藤英二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の平成元年分の所得税について平成三年一月一〇日付けでした更正処分のうち、課税長期譲渡所得金額三六九三万五〇〇〇円、納付すべき税額七四六万一八〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同趣旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、原告の平成元年分の所得税について平成三年一月一〇日付けで課税長期譲渡所得金額を四八六一万三八〇〇円、納付すべき税額を一〇二二万九三〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税を九六万六〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
2 しかし、本件更正処分のうち課税長期譲渡所得金額を四八六一万三八〇〇円、納付すべき税額七四六万一八〇〇円を超える部分及び本件賦課決定処分は、違法である。
3 よって、原告は、その取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 第1項の事実は、認める。
2 第2項及び第3項は、争う。
三 抗弁
1 原告は、不動産賃貸業を営む白色申告の事業者であり、平成二年二月二三日、平成元年分の所得税について、分離課税用の確定申告書を提出した(以下、この確定申告を「本件確定申告」という。)。
その申告所得金額は、次のとおりであり、本件確定申告から審査裁決に至るまでの経緯は、別表一記載のとおりである。
(一) 不動産所得の金額 一五四万八二九〇円
(二) 長期譲渡所得金額(長期譲渡所得の特別控除後) 三六九三万五五〇〇円
右長期譲渡所得の金額の算出に当たり、原告が申告した必要経費の額は、二〇五万四五〇〇円であり、その内訳は、長期譲渡所得の概算取得費控除の額一九九万九五〇〇円、司法書士報酬二万五〇〇〇円、収入印紙代三万円である。
2 原告は、平成元年三月九日、訴外三沢進一(以下「訴外三沢」という。)との間で、別紙一記載の土地(以下「本件土地」という。)を訴外三沢に売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同年四月二〇日ころ、訴外三沢から、その代金全額を受領した。前項の長期譲渡所得は右のようにして本件土地を売り渡したことによる所得であり、原告は、本件土地の売買代金が三九九九万であったとして本件確定申告をした。
3 ところで、原告は、本件売買契約の交渉、締結等を原告の長男神野金盛及びその妻神野慶子に委ねていたが、神野慶子は、平成元年三月九日、訴外三沢の代理人(妻)三沢立子との間で本件土地を坪当たり八〇万円で売却する旨の合意をしたにもかかわらず、売買代金が増額三九九九万である旨の虚偽の内容の売買契約書を作成し、手付とし四〇〇万円を受領した。
そして、神野慶子は、本件売買契約締結後に判明した本件土地の面積二一五・七〇平方メートルを基に、同年四月二〇日、三沢立子との間で本件土地の代金を総額五二二八万八〇〇〇円と確定し、当日、残代金として額面三五九九万円の小切手を受領した上、当日、又はそれからまもなく、三沢立子から、裏金として、現金一二二九万八〇〇〇円を受領した。
4 本件確定申告の申告書は、神野慶子が前項の虚偽の代金が記載されている売買契約書を前提として作成し、原告が提出したものである。
5 そこで、被告は、原告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたものであり、その算出根拠は、別紙二、三のとおりである。
四 抗弁に対する認否
1 第1項及び第2.項の事実は、認める。
2 第3項の事実は、否認する。本件売買契約における売買代金は、三九九九万円であり、原告又は神野慶子が訴外三沢から右発買代金を超える金員を受領したことはない。
4 第4項の事実は、売買契約書に虚偽の代金が記載されていたことを否認する。
5 第5項は、売買代金が五二二八万八〇〇〇円であったとの誤った事実を前提としているので適正ではない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因第1項の事実並びに抗弁第1項及び第2項の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、次に、抗弁第3項及び第4項について判断する。
1 証拠(甲二ないし五、乙一ないし一四、乙一五の一ないし三、乙一六ないし二二、証人三沢進一、同三沢立子、同真野勝正)と弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告は、平成元年三月初めころ、かねて本件土地の売却依頼を受けていた訴外三沢との間でその売買契約の交渉、締結等をすることを原告の長男神野金盛及びその妻神野慶子に委ねたこと。
(二) そこで、神野金盛及び神野慶子は、訴外三沢及びその妻三沢立子との間で本件土地の売買交渉をした後、同月七日、三沢夫婦との間で坪当たり八〇万円で売却することについて一応の合意をしたこと。
(三) そして、同月九日、三沢立子は、取引先である名古屋銀行の行員真野勝正を同伴して原告方を訪問し、神野慶子との間で、再度、坪当たり八〇万円で売買することを確認した上、神野慶子との合意の下に、税金対策として、真野勝正に坪当たり六〇万円で売買した旨の契約書を作成するよう依頼し、これを受けて真野勝正は、持参していた契約用紙に売買代金を三九九九万円と記載したこと。そして、三沢立子及び神野慶子は、それを用いて売買契約書を完成させ、同日、手付金四〇〇万円の授受を終えたこと。
(四) その後、本件土地の地目を現況の雑種地に変更した際、本件土地の面積は、土地区画整理の際の測量によると合計二一五・七〇六平方メートルになることが判明したこと。
(五) そして、神野慶子は、同年四月二〇日、本件売買契約の決済のため、農協職員を同伴して三沢宅を訪問したこと。決済には、三沢立子の依頼により名古屋銀行員の真野勝正も立ち会い、三沢立子の依頼により、本件土地を宅地と見て、その面積を二一五・七〇平方メートルと確定し、坪当たり八〇万円との合意に基づき本件土地の代金を総額五二二八万八〇〇〇円と算出したこと。そして、当日、神野慶子は、三沢立子から売買契約書上の残代金として額面三五九九万の小切手を受領した上、裏金として、同人から、現金一二二九万八〇〇〇円を受領したこと。
(六) 本件確定申告書は、神野慶子が原告に代って作成し、原告は、それを用いて本件確定申告のために被告に提出したこと。
2 ところで、原告は、本件売買契約における代金額は、契約書どおり三九九九万円である旨主張し、証人神野慶子は、これに符合する供述をする。しかしながら、代金が坪当たり八〇万円と合意されたことについては、証人三沢進一、同真野勝正、同三沢立子の証言が一致しており、本件においては、これらの証人が虚偽の証言をすべき事情を認めるに足りる証拠はない。また、乙八号証(三沢立子作成の日誌)、乙一七号証(真野勝正作成の手帳)の各記載についても、それが虚偽の記載であるとすべき事情を認めることはできない。そうすると、右各証拠に照らし、証人神野慶子の右供述は採用することができないというべきである。
三 右に認定したところによると、原告は納付すべき税額の計算の基礎となる事実の一部につき隠ぺい、仮装を行い、それに基づいて本件確定申告をしたことになる。そして、以上において認定した事実と弁論の全趣旨によると、その税額計算の基礎となるべき事実及び数値は、別紙二記載のとおりと認めるのが相当である。
四 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官後藤博及び裁判官入江猛は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 岡久幸治)
別紙一
物件目録
一 名古屋市港区小碓三丁目四六番 田 二〇一平方メートル
二 名古屋市港区小碓三丁目四六番一 畑 一四平方メートル
別紙二
原告の納付すべき税額及び重加算税額
1 納付すべき税額
(一) 総所得金額(別表一、更正賦課決定欄の<1>) 一五四万八二九〇円
原告が申告した不動産所得(不動産賃貸業)の金額
(二) 長期譲渡所得の金額(別表一、更正及び賦課決定欄の<2>) 四九六一万八六〇〇円
租税特別措置法三一条の規定を適用して別表二記載のとおり計算した金額
(三) 特別控除額(別表一、更正及び賦課決定欄の<3>) 一〇〇万円
租税特別措置法三一条四項の規定する金額
(四) 所得控除額(別表一、更正及び賦課決定欄の<4>) 八〇万円
原告が申告した所得控除の額
(五) 課税総所得金額(別表一、更正及び賦課決定欄の<5>) 七四万八〇〇〇円
総所得金額から所得控除額を控除した金額(一〇〇〇円未満切り捨て)
(六) 課税長期譲渡所得金額(別表一、更正及び賦課決定欄の<6>) 四八六一万八〇〇〇円
長期譲渡所得の金額から特別控除額を控除した金額(一〇〇〇円未満切り捨て)
(七) 算出税額(別表一、更正及び賦課決定欄の<7>) 一〇二二万九三〇〇円
課税総所得金額に対する算出税額七万四八〇〇円及び課税長期譲渡所得金額に対する算出税額 一〇一五万四五〇〇円の合計額
2 重加算税額(別表一、更正及び賦課決定欄の<9>) 九六万六〇〇〇円
右税額計算の詳細は、別紙三のとおりである。
別紙三
1 所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額であり(所得税法(以下「所法」という。)22条1項)、不動産所得の金額及び譲渡所得金額は、総所得金額として本来これを合算すべきであるが、(同条2項、26条、33条)、本件譲渡所得は、長期譲渡所得の課税の特例の適用があり(租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条2項)、分離課税となる。
(単位 円)
2 長期譲渡所得の金額及び税額の計算
<1> 収入金額 52,288,000
<2> 資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額(ア+イ)
ア 取得費 △2,614,400(措置法31条の4、平成3年法第16号改正前のもの。)
イ 譲渡費用 △55,000
<3> 長期譲渡所得の金額 49,618,600
(<1>-<2>)
<4> 特別控除額 △1,000,000(措置法31条4項)
<5> 課税長期譲渡所得金額 48,618,600
(<3>-<4>)
課税標準の端数計算 48,618,000(国通法118条1項)
<6> 税額計算 (措置法31条1項、平成3年法第16号改正前のもの。)
40,000,000×0.2+8,618,000×0.25=10,154,500
3 総所得金額(2以外の所得金額)及び税額の計算
<1> 不動産所得の金額 1,548,290
<2> 所得控除(ア+イ)
ア 配偶者控除 △450,000(所法83条、2条33の2号)
イ 基礎控除 △350,000(所法86条)
<3> 課税総所得金額 748,290
(<1>-<2>)
課税標準の端数計算 748,000(国通法118条1項)
<4> 税額計算 748,000×0.1=74,800(所法89条)
4 2と3の税額合算
<1> 納付すべき税額
10,154,500+74,800=10,229,300
<2> 更正金額と申告金額との差額
10,229,300-7,461,800=2,767,500
5 重加算税の計算
<1> 付帯税の端数計算(4の<2>) 2,767,000(国通法118条3項)
<2> 税額計算 2,767,000×0.35=966,00(国通法68条1項)
別表一 課税経過表
別表二 長期譲渡所得計算明細書